2008年2月29日金曜日

近畿 日本 鉄道

東への鉄路―近鉄創世記〈上〉

三重県北部・奈良県(旧、伊勢国・志摩国・大和国)内を旅行するとき、JRを利用する人は近鉄を利用する人より遥かに少ないだろう。この地域は都市にしろ、鉄道路線にしろすべて近鉄が中心で、さながら「近鉄王国」である。そんな近鉄は大阪~奈良間を結ぶ「大阪電気軌道」(大軌)という小会社から始まった。当初、切符の印刷費や社員給料の支払いにもこと欠くほど財政が窮乏していた大軌が、なぜ日本最大の民鉄会社になれたのか・・・・ その裏に隠されたさまざまな人の努力が読み取れる。橿原へ、伊勢へ―  事業拡大を図る会社の歴史は見ていて面白いものであるが、特に近鉄のそれは大正から昭和にかけてのロマンというものが感じられた。この本を読めば、近鉄という会社に対するイメージも少しは変わるに違いない。

三重県は近畿である。東海地方という範疇に括られるのは肯んじないが、中部というよりも近畿に対する帰属感が強い。三重県人のその意識構造の基幹に近畿日本鉄道という一私企業が大きな役割を果たしていることに改めて感動した。近鉄は日本の三大都市圏の内二つを結ぶ唯一の私鉄インターシティーであり、標準軌を採用する鉄道として、三重県に住む鉄道ファンである私にとって誇らしい存在であった。と、同時に何故このような立派な鉄道が、決して人口密集地帯でもない名阪間に存在していることに、三重県においては多くJRと平行しながら完全にそれを圧倒していることに、漠然とした疑問も持っていた。この本に出会ったことによって、その疑問が氷解した。この本を読んだ三重県人の大多数は、私と同様に伊勢電が参急と合併して良かったと感じるであろう。

この本は、近鉄の前身の大阪電気軌道(大軌)が、開業当時の膨大な借金経営から脱却して、路線の延長を行って、現在の近鉄大阪線桜井以東と山田線を経営した参宮急行電鉄によって伊勢神宮まで路線を延長するまでを描いています。先人達の苦労振りを著者の綿密な調査によって明らかにしており、僕は凄く感動しました。

この本は「黒部の太陽」などの企業もの・プロジェクトもので名作を多く残した木本正次氏の著作である。近鉄電車が貧乏電車の時代を乗り切りどのように成長をしていったのか人間ドラマとしてよく描かれている。鉄道技術についての記載がやや少ないようではあるがいまも近鉄電車のファンの中で名車の名をほしいままにしている2200系の開発秘話など、日本が貧しくとも精神が豊かだった時代を象徴するような描写がとてもうまく表現されている。鉄道ファンだけではなく小説としても十分耐えうる作品であることはいうまでもない。鉄道にほんの少しでも興味のある方にはぜひお薦めしたい一冊である。

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